広がるデジタルサービスの対象

最近、「デジタル」や「DX」が注目されています。
その背景の一つには、デジタルサービスの対象が広がっている事があります。

これまで「デジタル」と言うと、機械化や自動化が進んだ領域が主な対象として捉えられていました。
特に製造業などは機械化が進み、収集できるデータも多く、実際に効率化などのメリットを得やすいため、DXが浸透しつつあります。

しかし、最近は、従来は機械化が進んでない領域にまでDXの波が広まりつつあります。
今回はその背景について紹介したいと思います。


デジタル化の対象となりやすい領域は、単純作業…?


デジタル化やDXに取り組みやすい領域は、主に機械化や自動化が進んでいて、データが既に収集できる領域です。
機械化や自動化が進んでいたのは、主に単純作業や繰り返し作業でした。

特に、製造業の生産ラインは、機械化が進み、データも大量に発生するため、もっとも着手しやすい領域のひとつです。
実際に生産性が劇的に向上した事例も多く、デジタル化が一気に進みました。


効率化が進んだのは、高度な業務のデジタル化だった


実は、DXによって工場の生産性が大幅に向上した事例では、個人の作業量や設備の生産能力は維持したまま、これまで見落としていたボトルネックの解消などを通してモノの滞留を無くすことにより、ライン全体の生産性を向上させています。

この生産性を向上させたのは、生産ラインの業務の中でも最も高度なスキルが求められる「改善活動」の成果でした。
つまり、製造業のDXは、生産ラインのデジタル化よりも、「改善活動のデジタル化」という、より高度な業務で効果を発揮することで、より大きな成果を得られるのです。


DXは、どのように高度な業務に貢献したのか?


これまで、改善活動といえば、熟練者が長年の勘と経験から改善ポイントを見つけ出す必要があり、限られた人材にしかできない高度な業務でした。

しかし、デジタル化によって、現場の生産状況が誰でも手に取るように把握できるようになると、熟練者だけでなく若手人材も改善ポイントを見つけ出せるようになりました。

デジタル化の真の効果は、改善活動のように限られた高スキル人材にしかできなかった高度な業務の一部の難易度を下げる事にあります。


高スキル人材がより高度な業務に集中できるように


生産現場の改善活動は、「改善ポイントを見つけ出す作業」と、「具体的な対応策の考案」、そして「人材の育成」という3つの業務に分けられます。
この内、「改善ポイントを見つけ出す作業」は、実際の改善活動の9割以上の時間を占めますが、熟練した知識と経験が必要で、長い時間を掛けてもなかなか改善活動が進まなかったのが課題の本質でした。

デジタル化によって、より多くの技術者がこの「改善ポイントを見つけ出す作業」に取り組めるようになると、熟練者は、「具体的な対応策の考案」やこれまであまり時間を割けなかった「人材の育成」に時間を避けるようになります。

つまり、機械化や自動化によって単純作業を効率化させるだけでなく、より多くの、そして正確なデータを活用する事で、より高度な業務も効率化されるというところにDXの本質があります。

そして、熟練者は、経験や勘だけを頼りにするのではなく、データという新たな武器も併せて使って判断する事で、より精度の高い判断ができるようになります。

私の知っている企業では、デジタルという武器を手に入れた熟練者は、国内だけでなく、日本に居ながら海外の工場に向けても改善指導ができるようになったというところもあります。


分かりやすく提供すること、柔軟に取り入れることも大切


もちろん、このような効果を得る為には、大量のデータをそのまま提供するだけでは進みません。
得られたデータを、例えば図のように、使用者にとって分かりやすい形で提供することも重要になってきます。

また、このように高度な判断をする人、つまり、リーダーや経営者に当たる人も、積極的にデータを活用することが求められます。
ぜひ、経営者の皆さんも、「DXを実行する」と宣言するだけでなく、自らも新たなデジタルツールを積極的に活用することをお勧めします。


リモートワークで広がるデジタルサービスの対象


そして、デジタルサービスの対象は、工場などの生産現場だけでなく、オフィスなどの事務領域へも広まりつつあります

新型コロナウイルスが広まる前からも、オフィス業務の効率化としてRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などの技術が一部の企業で注目され始めていました。
そこに、新型コロナ対策としてリモートワークへのシフトが一気に浸透した流れで、オフィスでの事務領域でのデジタル化がより進みつつあります。

そんな職場環境の変化によって、対話やメールが中心だった職場のコミュニケーションが、TeamsやSlackを活用したコミュニケーションにシフトしています。
今年からTeamsやSlackを使い始めたビジネスマンも多いのではないでしょうか?

TeamsやSlackでのコミュニケーションは、メールの代替だけでなく、他のサービスとの自動連携に大きな価値があります
コミュニケーションツールをうまく使う企業では、こういった自動連携を活用し、商談発生や受注状況などの仕事の進捗を自動で共有する事で、メール作成などの負荷を減らす取り組みが進んでいます。

今後は、これらの仕組みを活用することで、ビジネスの状況をリアルタイムで共有するだけでなく、データを活用する事で商談に優先順位をつけやすくするなど、DXによる効果を最大化する企業が更に増えてくるでしょう。

次回は、より具体的に、社内プロセスを効率化させるオペレーショナルエクセレンスとDXの相乗効果について紹介したいと思います。