デジタルで加速するOPEX

今回は、デジタルで生産性向上を加速させることが、OPEX(オペレーショナルエクセレンス)の実現につながる事についてご紹介します。


OPEX(オペレーショナルエクセレンス)とは?


オペレーショナル・エクセレンスとは、会社としての業務改善プロセスが現場に定着し、会社全体の業務オペレーションが磨きあげられ会社の競争優位性を確立できている状態のことを言います。 企業の競争力の源泉として重要視されることもあり、企業戦略の一つとしてとらえることもできます。

オペレーショナルエクセレンスが実現できていると、担当者が誰だとしても付加価値の高いサービスが提供できるため、組織として競合優位性を確保できている状態になります。逆に、オペレーショナルエクセレンスが実現できていないと、業務が属人化していて、ノウハウも共有されていない状態なので、以下の課題が発生してしまいます。

  • 人によってサービスの品質が大きく異なる
  • 会社としてサービスがスケールできない
  • 古い業務プロセスしか共有されておらず、競合優位性となっていない
  • 業務が属人的で全体の連携ができておらず、優秀な人材の業務負荷が集中してしまい、優秀な従業員ほど離職リスクが高い

このように、OPEXが実現できていないということは、会社の競争力の源泉が実は個人に依存した状態であるということであり、一時的な優位性しか築けていない事になります。そのため、その個人がいなくなると競争力を失ってしまうリスクがあります。


生産現場におけるデジタルを活用したOPEXの実現


生産現場では、デジタルの活用によって圧倒的な生産性が向上できている企業が増えています。

私が関わった事例のひとつでは、勘と経験ではなく、データという“事実”を元に改善活動をする事で、改善活動が属人化せず、誰でもボトルネックが把握できるようになった事で、劇的な生産性向上に繋がりました。さらに、大量生産品だけでなく、多品種少量の製品の生産性を向上させることができたことで、会社として大きな競合優位性を確立させる事ができました。

まさしく、デジタルの活用によって、改善活動が、個人に紐付いた属人的な活動から全社的なものになり、OPEXが実現できたと言える事例です。


自動化に人間が組み込まれた業務の課題


実は、自動化が進んでいる生産現場でも、全ての工程が自動化されているわけではありません。組立や最終品質チェック、設備エラーへの対応など、一部の工程で人の作業が残っており、人とロボットの工程が交互に組み込まれています。そのように人とロボットが連携し合うプロセスでは、生産性を向上させるのが非常に困難になります。

しかし、そう言った生産現場でも、IoTデータでモノの流れを見える化する事で、どういった状況で滞留が発生してしまうかが見えるようになりました。そして、生産性を低下させる滞留の中でも大きな影響を与える長時間の滞留は、重大なエラーだけでなく、軽微なエラーでも生じていた事が見えてきました。

これは、設備がエラーを発するときに、重大なエラーの場合は、すぐにエンジニアが駆けつけ対処しますが、軽微なエラーの場合は、優先度が低いと判断し、他のエラー対応を優先することで、当該エラーへの対応が遅くなるケースがあったためです。

設備が発するエラーの重要度は、待たされる時間を考慮することなく、設備にとって重要かどうかで判定され、出力されます。設備にとって軽微と判定されたエラーでも、放置された状態が長引くことで生産性に大きな影響を与えていた事をデータから発見する事ができました。

このように、設備のエラーの件数や重要度だけではなく、モノの流れを把握する事で、人とロボットが連携し合うプロセスでも、生産性向上が実現できています。

もちろん、オペレーショナルエクセレンスが対象とする業務は、ものづくりだけではありません。事務処理や商談活動などのオフィス業務でも、業務効率化やアウトプットの品質を均一にするためにプロセスを標準化している企業も多いでしょう。そのような業務プロセスの中で自動化できる業務は、RPAなどのソフトが導入されています。

一方で、業務プロセスの中でも付加価値の高い業務は、敢えて自動化せずに人が対応する事で、顧客提供価値を最大化させることも重要です。そのような背景で人の作業と自動化が組み合わさっていると、生産現場と同様に、仕事の進みが滞留してしまう事があります。社内のメンバー間で適切なタイミングで情報が伝わらず、仕事が進まず、お客様からクレームが来た事はないでしょうか?RPAが導入されたとしても、自動化の次の人の作業が停滞してしまうと、サービスの価値が低下してしまうこともあります。

今後デジタル化が進むにつれ、ものづくりだけでなく、オフィス業務においてもオペレーショナルエクセレンスの効果が期待されていきます。その際に課題となるのは、単純に自動化によって業務を速くする事や、楽にする事だけでなく、顧客への提供価値としての「タイミング」であると言えるでしょう。


人とデジタルの協調


今後も、デジタルによってさまざまな業務で自動化が進むことは確実です。

その中で、単純にデジタル化を推進するだけでなく、人とデジタルがいかに協調しあえるかが、「生産性の向上」と「提供価値の最大化」を両立させる重要な要素となってきます。人と機械が協調し合いながら、ベストのタイミングでサービスを提供できた時に、初めてDXによるオペレーショナルエクセレンスが実現できたと言うことができるでしょう。