スペイン一色から一転、ポルトガルでの在外研修

はじめまして!ポルトガル北部の街ポルト在住の福田恵理です。
12月からポルトガルかるたを担当することになりました。ポルトガル歴は2年目で、前回までご担当されていた桐山さんと比べればまだまだポルトガル初心者ではありますが、私なりの視点でここでの生活をお伝えできればと思います。どうぞよろしくお願いします。

今回は自己紹介も兼ねて、 「なぜ今ポルトガルに来たのか?」 「ポルトガル語の難しさとその魅力」についてお話します。


なぜ今ポルトガルに来たのか?


さて、なぜコロナ禍の2020年にわざわざ日本を出て、ユーラシア大陸西端の小さな国へ来ることになったのかといえば、ざっくりと言って 仕事の都合です。

私は2019年に現在の仕事を始め、 研修言語としてポルトガル語を学ぶことになりました。学生時代からポルトガル語に関心があったかといえば、遠からずとはいえ答えは否です。

大学ではスペイン語及びスペイン美術史を専攻しており、サラマンカ大学への短期留学、在京スペイン大使館でのインターン等を通じ、当時の私の関心はイベリア半島の中でもお隣の国一色でした。もちろんポルトガル語がスペイン語にとても似ているということは聞いていましたが、詳しく勉強したことはない、という状態で入りました。

研修先にポルトガルを選んだのは、ブラジルのポルトガル語よりヨーロッパのポルトガル語の方が難しいので、先に難易度が高い方を習得しようと考えたためです。ポルトを選んだ理由としては、ある程度都会的な所に住みたかったということと、入省前に卒業旅行で訪れたポルトの町並みを気に入ったからです。

コロナの影響で出発が少し遅れましたが、こういった訳で、昨年8月から来年夏まで、ポルトガルで暮らすことになりました。その間にポルトガル語で高度な仕事ができるレベルまで語学力を磨き、またポルトガルの政治経済、歴史文化などの知見を深めなければなりません。そのため、語学学習と並行して、昨年から現地の学生と一緒に大学院で近現代史を勉強しています大学での生活については、また次回詳しくお話します。


ポルトガル語の難しさとその魅力


海外で生活するにあたって、言語の壁というのは気になる問題だと思います。
他の非英語圏のヨーロッパの国とは異なり、ポルトガル人は驚くほど英語を話す割合が高いので、ほとんど英語のみで問題なく生活している邦人の方もいらっしゃいます。私の場合、日本語話者との会話を除いて、生活はほぼ全てポルトガル語で行っています。先日CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)のC1レベルを取得したので、現状の能力はそれくらいだと思います。ポルトガル語学習歴は、日本での研修を含めて3年弱といった所ですが、その前に4年間学習していたスペイン語が役立ったのは言うまでもありません。

大学時代にポルトガル語に触れた経験はラテン音楽くらいで、例えばBelliniの“Samba do Brasil”を聴いて、スペイン語から類推できる部分もあるけれども、よく分からない単語もあるな、という程度でした。国によって話されているポルトガル語がかなり違うということも知りませんでした。

ブラジルとヨーロッパのポルトガル語について、それぞれのネイティブの先生と同時進行で学習することになったのですが、これが意外と大変でした。スペイン語の下地がある分、最初から文章が何となく読める、動詞の活用に抵抗がないといったアドバンテージはありましたが、むしろ3つの微妙に異なる言語が頭の中で混在する状態になってしまいました。例えば、交通手段の「バス」はヨーロッパのポルトガル語で“autocarro”、ブラジルでは“ônibus”、スペイン語では“autobús”といいます。始めのうちは「今私が発したのは何語だったのだろう?」という状態でした。
ちなみに文法や発音の観点から、3つのうちで最も難しいのがヨーロッパのポルトガル語だと思います。

ポルトガルに1年住んだ今となっては、ヨーロッパのポルトガル語が真っ先に出てくるようになりました。他方で今後ブラジルに赴任すれば、ブラジルのポルトガル語を鍛え直すことになります。また現在スペイン語圏出身の友人とスペイン語を話そうと思うと、ポルトガル語と混ざってしまうのが悩みの種です。これら3つの言語を綺麗に使い分けるのはかなり難しいとは思いますが、折角それぞれを学習する機会を得たのですから、その域まで達したいです。

ポルトガル語の魅力は、その話されている地域の多様性にあると思います。
あまり知られていないかと思いますが、母語話者数が世界第6位で、ヨーロッパのポルトガル、南米のブラジル、アフリカではモザンビークなど5カ国、アジアでは東ティモールとマカオ(少なくなっているとは聞きますが)と、世界一周できてしまうのです。ポルトにいても、ブラジルはもちろんモザンビーク、東ティモール、マカオなど様々な人々と会話する機会があり、多少の差はあれ全てポルトガル語で意思疎通できます。実はとてもお得な言語なのだと感じます。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

次回はポルトでの生活、大学院について、さらに私の趣味である日本の伝統文化とポルトガル、という切り口でお話したいと思います。

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◎ ポ ル ト ガ ル か る た 著 者 リ レ ー ◎

~桐山シルバ幸子さんから福田恵理さんへ~

Q. 既に1年程滞在されているとのことですが、ポルトでの生活で一番印象に残っていることはどんなことですか。またこれから訪れてみたいポルトガルの町があれば、教えて下さい。

A. ポルトで最も印象に残っているのは、やはりルイシュ1世橋モーロ庭園からの眺めです。昼間の景色も、夕焼け時も、夜景も何度となく見ているのですが、その度に心を打たれるものがあります。これから他の国に赴任することになっても、写真などでこの風景を見る度にポルトでの生活を思いだすと思います。

ポルトガルは北部と中部を中心に旅行しましたが、まだ南部のアルガルヴェに行ったことがありません。ポルトの海は大西洋で、夏でも絶叫するほど冷たいですが、南部の地中海の水は温かいと聞いているので、来年の夏には必ず行って泳ぎたいです。

■Memo:
桐山シルバさんからのバトンを繋ぐ2人目の著者は、福田恵理さんです!

スペイン一色からポルトガルへのシフト。
似ているから楽なのではと思ってしまいますが、似ているからこその壁があるのですね!
それでも全てをマスターする域へ…という向上心には、冷静さの中の熱い気持ちが垣間見えるようでした。
次回の大学院について、そして日本文化と絡めたポルトガルもとても気になります!

福田さん、ありがとうございました!