データライフサイクルから見たDXの取り組み

今回、データのライフサイクルの観点でのDXの取り組みについてご紹介します。

コロナ禍でのテレワーク推進やDXによって、様々な業務がデジタルで遂行されるようになりました。これらの取り組みに伴って、業務の効率化が進んでいる事は非常に喜ばしい状況です。一方で、DXの効果は業務効率化だけではないことにも注目する必要があります。デジタル化によって業務の実績が記録される事で、これまで見えてなかった課題が明確になり、コスト削減や売上拡大に結び付けられるヒントが得やすくなっています。これらのメリットを意識せずにデジタル化を進めると、せっかくのヒントを捨ててしまっている可能性があります。

今回は、そのヒントを逃さないためのポイントについて、データライフサイクルの観点でご紹介します。


これまでのシステムの主な利用目的


これまでのシステムは業務を着実に、或いは効率的に遂行させるため開発されてきました。そのため、日々の業務プロセスを形式知化して、そのプロセスをシステム化してきました。したがって、システムの目的はプロセスの遂行となります。

お客様にサービスを届け、請求書を提出し、入金を確認するといった、会計処理をメインに使われていたことが多く、着実に業務を進めるための日付や数量などのチェックや記録が重要な機能でした。そして、その業務プロセスで生まれたデータについては、決算や監査対応などに使う事が主な利用目的でした。


ここまでのシステムにおけるデータのライフサイクル


ここまでのシステムについてデータのライフサイクルの観点で見ると、「更新」「保存」「削除」といった大まかなプロセスを経ていることになります。

まず、データの「更新」では、日々の業務プロセスに合わせてデータが新規で作成(Create)されたり、更新(Update)されたりするため、頻繁な更新に対応できるRDBというデータベースに格納されて運用されます。例えば、お客様からの注文をオーダデータとして新規作成し、製造部門や配送部門に注文内容を伝えます。その後、納品、検収を経た後、請求、売上確定などの処理を経るたびにオーダデータは更新され、最終的に完了します。一方で、一度売上まで完了されたオーダーは、その後更新されることは少なくなります。これらのデータは、企業によってはそのままRDBに格納されますが、更新よりも参照系に特化したDWH向けのデータベースに格納される事もあります

頻繁に「更新」されなくなったデータは、一定期間「保存」(Archive)されることとなります。決算が終わった過去データなどは、ほとんど更新されることはないですが、監査対応に向けて削除せず、アーカイブとして、頻繁に参照や更新されることを前提としないストレージなどに保管されるようになります。

そして、「保存」する必要も無くなったデータは、最終的に「削除」(Delete)されます。


活用され始めた「保存」データ


これまで、システムは、日々の業務プロセスを推進させるために利用されてきました。そのため、一度「保存」状態に移ったデータは、その後それほど使われることはありませんでした。しかし、最近は過去の「保存」データも活用して、データから経営判断を下す事が多くなりましたまた、これまで蓄積してきたデータからアルゴリズムなどの知見を生み出す事で、業務を自動化したり、より効率的にするために活用される事が期待され始めました

こうなると、データのライフサイクルが少し変化します。基本的な業務プロセスにおけるデータの流れは変わらないものの、一度は「保存」に移されたデータも、分析に活用されるようになってきました。

ただし、一度削除されてしまったデータは、復元することはできません。もちろん、ほとんどの企業は過去のデータも蓄積していますが、監査対応などを前提とした状態のデータでは、すぐに分析することは難しいでしょう。だからと言って、何年間分ものデータを日々更新されるRDBに保存していると、コストが膨れ上がってしまいます。そのため、ある程度の性能は許容しながら、コストのかからず、かつ分析しやすい状態で保存する事が重要となります。


データ活用を想定したクラウド技術の進展


幸いながら、こういった取り組みは先進的な企業では既に取り組まれており、デジタル技術もその要望に応える形で進展し、今ではクラウド基盤でより手軽に利用できる環境が整っています具体的には、コストのかかるデータベースではなく、テキスト形式で保存されたログデータに対してもクエリ解析ができるようになっています。

一方で、このような技術を知らないと、あまり更新されず、検索性能も低いデータベースに膨大なデータを蓄積する事となり、無駄なコストが発生してしまいます。システム業界ではよく、「銀の弾丸はない。」と言われており、データライフサイクルの全てに万能な技術はありません。性能、コスト、セキュリティなどの観点でデータのライフサイクルに応じて適切な環境に保存し、活用する事がDX時代では求められており、また、それに応えられる技量がエンジニアに求められる重要な資質のひとつとなっています。


DX時代に求められるエンジニアスキル


従来は各個別システムを構築することがエンジニアに求められることでした。しかし、DX時代では、構築システムで生まれたデータを、どのように保存し、活用するかといったデータ活用のスキルが求められています。また、これらのデータ活用には、単純にAIや統計解析の技術が使えることだけでなく、それぞれのデジタル技術を活用し、ひとつのデータを多様な用途で利用できるようにするために、データをどのように保存・変換するべきなのかを適切に判断できることなども含まれ、データに関してより広範囲な技術を求められます。


データライフサイクルで期待できる経営効果


このように業務の実績データが分析できるようになると、これまで時間軸でしか分析できなかった経営指標(売上、原価、利益率など)も、より細かい分析ができるようになりますお金の軸では、商品別の利益率であったり、利益率の悪い商品のコスト分析も可能になります。また、同じデータから、従業員毎の業務負荷だけでなく、業務内容も分析することで、スキルが属人化していないかなども把握できるようになります。もちろん、これらの取り組みは、取り組み自体が売上増大やコスト増大に直接繋がるわけではありません。しかし、問題の箇所や深刻度合いを正確に把握できることは、施策に正確な優先順位をつける上で重要な指標になります

AIやRPAなど個々の技術に注目することも大事ですが、個々の技術はどの企業でも利用できるため、それだけで企業の差は生まれません。それぞれの企業の違いはその業務プロセスにあり、その業務プロセスは社内にデータとして蓄積されているはずです。このデータをもとに正しい経営判断を下し、他社と差別化を図ることができれば、その取り組み内容を他社は真似することができません

外の技術だけでなく、社内のデータについてもぜひ着目してみてください