#10 今後東京ヴェルディでやっていきたいこと

ここまで全9回のコラムで、転職の経緯や現在の取組み内容、コンサル時代との比較など、サッカービジネス×コンサルという切り口で、様々な内情をご紹介してきました。

特に、コラム#3でご紹介した通り、東京ヴェルディに来た最初の1-2年間は、強化部のベースを再構築する業務に邁進してきました。具体的には、コストの見える化と企業体力を考慮した上での現実的な部門コストへの移行、選手との契約や登録業務をはじめとする部門業務の標準化など、強化部及びチームがスムーズに運用されるための土台は形成できたと感じています。

これからの数年間においては、ベースに上積みする形でより付加価値を高める取り組みとして、下記①②に注力していきます。

①人材マネジメントの仕組み構築
②新たな収益システムの構築

これらはいずれも、ここ1-2年間で業務標準化と同時並行で種まきをしてきた施策であり、「クラブの成長のため」に取り組むものです。人材を適切に育て、同時に収益を獲得していく。それがクラブの経済的な成長(ビジネス面の成長)と競技成績の向上(スポーツ面の成長)を両立する正のサイクルを生み出すと信じています。


①人材マネジメントの仕組み構築


選手のサッカー観点での育成は、現場の監督コーチが日々成長を促すアプローチをしてくださっています。私はその裏側、つまりサッカー選手以前に1人の人間として、教養やスキルをどのように伸ばすかを日々考えています。
現在は、特に高卒・大卒1年目の選手に対する「新人研修」を整備し、クラブスタッフやクラブ外のパートナーの皆さんとともに、プロサッカー選手としてあるべき姿勢や、プロスポーツビジネスの基礎、栄養など体作りの基本や、納税・マネー/ライフプランニングなどお金の知識、等に関する教育プログラムを受講してもらっています。

今後はより多くのパートナーの方々とともに、教材の幅を広げ、内容を深め、学習の機会・頻度を増加させられるような仕組みを作り、同時に、クラブに関わる人間として備えるべきスキルセットと、そのために必要な教育カリキュラムの構造化を進めていきます。


②新たな収益システムの構築


サッカークラブのスポーツ部門は、世の中的にはコストセンターと認識されていますが、個人的にはプロフィットセンターに近づける取り組みがもっとできると考えています。なぜなら、サッカークラブにおいて、スポーツ部門こそが、サッカーという競技に関するナレッジやコンテンツが蓄積されているど真ん中の部門だからです。私のような経歴の人間がスポーツ部門に在籍しているうちに、スポーツ部門だからこそできる「コンテンツ・オリエンテッド」なビジネスの設計を、より一層進めていきたいと考えています。

多大な時間を要しますし、契約ごとですのでその頃まで自分自身が担当を続けられるかどうかは分かりませんが、将来的に目指す姿としては、スポーツ部門が持つ「ヴェルディらしいコンテンツ」を世界に発信すること。それが近い未来に実現できるように、目の前のベース作りにまずは邁進していきます。

話は逸れますが、韓国コンテンツがいま世界を席巻しています。アーティストでは『BTS』、映画・ドラマでは『パラサイト』や『イカゲーム』。韓国出身のタレントであり国際社会文化学者でもあるカン・ハンナ氏は、著書『コンテンツ・ボーダーレス』の中で、韓国コンテンツが世界中で大ヒットを生み出す根底の思想として、以下のように言及しています。

「『コンテンツ』というものは、どの国にもそれぞれ個性があり歴史がある。そのため、コンテンツを作る上で最も大事なのは、自分らしいアイデンティティを持つこと」

ヴェルディというコンテンツを世界に披露し、ヴェルディ自体も世界と伍するクラブに成長するためのポイントは、クラブの個性や歴史を踏まえた「ヴェルディらしいコンテンツ」をいかにアップデートし、構造化できるかにかかっています。

上記①②を考える上で重要な思想は、人材マネジメントの仕組みと新たな収益システムは密接に連関しているというものです。世界で活躍できる人材の育成・輩出の確率を高めることが、コラム#6で紹介したような移籍金や育成金の獲得に繋がります。他方で、コンテンツ・オリエンテッドな収益基盤を構築・運用する過程でヴェルディに関わってくれた人材が、人材マネジメントの仕組みをブラッシュアップしてくれる。まさに、経営資源がクラブ内で循環する世界観を目指していきます。

上記の取り組みが、まずはヴェルディのJ1昇格とその先にあるクラブの永続的な成長にも直結すると信じています。そのような使命感をもって、これらを推し進めていきます。