DX時代のムダ取り

ものづくりで有名なトヨタ生産方式(TPS)の改善活動には、ムダ取り活動があります。このTPSにおけるムダとは、売れないものを作ることや、売れるモノづくりに直結しない業務のことで、徹底的に削減してくことを推奨しています。具体的には、加工のムダ、在庫のムダ、造りすぎのムダ、手持ちのムダ、動作のムダ、運搬のムダ、不良・手直しのムダなどがあります。

ものづくりのおけるムダは、比較的目に見えやすいものが多いので、ムダを発見しやすいです。(中には、動作のムダや運搬のムダなど、目に見えにくく、熟練者でなければ見つけにくい特徴もあります。)

一方で、オフィスワークだと、こういったムダがより見えにくくなってしまいます。今回は、そんなオフィスワークでデジタル技術が発展してきた今、どのような無駄があるのか、紹介します。


データの無駄


デジタル技術が進んだ現代において、10年前の価値観と、今の価値観で大きく変わっていることがあります。例えば、通信量や記憶媒体の価格は劇的に下がっています。また、プログラミング技術もより高度化や簡略化が進み、自動化のハードルも下がってます。

そんなデジタル時代におけるデータに関する無駄をまとめてみました。

■入力の無駄

データ入力は自動的に登録されるのが理想的です。データ入力自体に価値創造はありません。センサーや、データ連携、画像認識などによって自動化できるか検討してみましょう。

■コピペの無駄

コピペはデータ入力で最も価値の生まれない作業です。人がやるより、自動化で処理するのが理想的です。2重入力が多いようであれば、自動化を検討しましょう。

■探す無駄

あのデータどこ?の探す時間は何も産まないのに時間が浪費され、非常に無駄です。誰でもデータの場所がわかっている仕組みが重要です。辿り着きやすい階層構造にするだけでなく、リンク経由で複数のルートからたどり着けるようにしたり、検索して辿り着ける仕組みが必要です。

■個人分散の無駄

「あのデータはあの人のPCにあるから送ってもらおう。」というのは共有化できていない証拠です。会社のデータは個人の資産ではなく、会社の資産です。必要な人は誰でもアクセスできる環境にしておくのが理想的です。

■不正確の無駄

「このデータ、間違ってない?」「なんで同じ月の売上が、資料によって違うの?」これも無くすべき無駄です。分散した無駄なデータを比較し、どこが間違ったか探すという無駄の作業を生むという、無駄が無駄を生むという悪循環が発生してしまいます。前述のデータ入力やコピペの無駄がこういった不正確の無駄を招きやすくします。そもそも、データを加工できる環境にしているのは、不正行為の温床にもなります。

■権限設定の無駄

あのデータは、あの人にしか参照できないので、あの人にお願いして送ってもらう必要がある。会社の仕事で必要な人が必要なデータを見られないのは権限設定に問題があります。もちろん、不用意に誰でもあらゆるデータが見えてしまうことは問題ですが、必要なデータを必要な人が見られない権限設定は、無駄な仕事を産んでしまいます。そもそも、設備と同じように、会社のデータは個人ではなく、会社の資産です。定期的に権限設定を見直し、透明性を高めると、意思決定スピードは速くなります。


データ処理の無駄


データだけでなく、そのデータを生み出す処理においても無駄はあります。無駄な処理は無駄な仕事を生み出す原因となるので、定期的に見直しましょう。

■手作業の無駄

自動化できる処理を手作業で行なっていると、正確性でも効率性でも無駄が発生します。頻度の多い処理で自動化できるものは、積極的に自動化しましょう。頻度の目安は、1回/月以上です。

■エラー処理の無駄

処理は正確に行う事が前提です。意図しない処理を実行してしまい、不正確なデータを生み出すと、無駄な仕事を生み出してしまいます。処理には必ずエラーケースを前提に作り、エラーが出たら、データを出さない、管理者に知らせるなどの基本的な仕組みを作っておきましょう。

■待ちの無駄

欲しいデータが瞬時に見れるのが理想。あのデータを抽出するのに5分待たなければならない。月次のデータが見れるのが5日後というのは会社のルールではなく、システムに問題があります。

■使われないデータの処理

もう、お役御免で誰も使わないのに実行される処理は無駄です。システムは作るだけではなく、不要なシステムは捨てる仕組みも重要です。その為には、その処理結果が使われているかどうか確認できる手段もセットで作っておくことが理想的です。


UXの無駄


DXが進むと、大量データを使う場面が増えてきます。一方で、その大量のデータを全て紙に印刷して業務を進めていては、逆に仕事が進みません。(データ活用に否定的な意見の中に、多すぎる情報は現場を混乱させるという意見もありますが、それはデータ活用の問題ではなく、UXの問題でしょう。)その大量のデータをどのように表現するか、UXについても無駄取りが必要です。

■大量文字の無駄

数値データは文字で表現するのと、グラフで表現するのとでは、莫大な差があります。できるだけグラフやヒートマップなど視覚的に把握できるように表現し、3秒で大小が把握できる見せ方が必要です。

■階層の無駄

目的のデータに達するまで何度も画面遷移する必要があるのは無駄。ユーザのIDに応じて所属組織や担当商品のデータがあらかじめ絞られていることが理想。自動化が難しくても、ショートカットなどを準備するなどでも対応が可能。


コミュニケーションの無駄


デジタル化が進むと、コミュニケーションも変化していきます。直接会って対話するFace2Faceの重要性は変わりませんが、コミュニケーションは目的や場所、相手など、ケースに応じて最適な手段を選ぶことが重要です。服装についてTPOを意識して、どんなシーンでも正装を求めるわけではないように、仕事のコミュニケーションでも、その時に応じた手段を選ぶことを心がけましょう。

■メールの無駄

社内のやりとりは、メールよりもチャットツールが適しています。目的に応じたチャンネルを作るなどして、効率的なチャットを行いましょう。チャットツールも各社似ているようで使い勝手が異なります。最近は取引先に応じて複数のチャットツールを使うこともよくある事です。

■チャット探しの無駄

チャットツールはコミュニケーションのためには便利なツールですが、重要な情報が分散するとチャット探しに陥ってしまいます。ノウハウとして貯めておきたいようなストック系の情報は、そのコンテンツに適したツール(Notionなど)を活用することが理想的です。

■日程調整の無駄

スケジュールが共有されていないと、都度予定を確認する作業が生まれてしまいます。日程が共有されて、OK/NGを聞くのが理想的ですし、社外との日程調整でも空き時間を予約できる仕組みがあるとより効率的です。

■遅刻の無駄

日程調整した予定は相手との約束事です。開始の時間を守るのはもちろんですが、終了の時間も守るのが原則です。

■長時間&大人数会議の無駄

会議を開いても、発言する人が限られたり、出席している人が居眠りしている会議があります。その会議の目的を明確にした上で、その目的達成のために「会議」の他に手段がないか考えるべきでしょう。また、議題に関係ない人を出席させるのも無駄です。5分単位でタイムスケジュールを管理すれば、議題の決議や議論に不可欠な人は、そのタイミングだけ参加することもできます。そもそも、長い会議と感じる時点で、非常に効率の悪い会議となっている可能性が濃厚です。中身の濃い会議は、たとえ長時間でもあっという間に過ぎていきます。

と、ここまでデジタル時代の無駄取りについていくつか挙げてみました。こういったデジタル面での無駄取り意識が高まると、なぜ新たなWebサービスが次々と登場するかも理解できると思います。

様々な新しいWebサービスは、こういったデジタルの無駄取りができる機能が日々アップデートされます。新しいWebサービスの魅力が感じられないのであれば、ひょっとするとこういった感度が鈍っているかもしれないので、無駄取りの視点で改めて評価し直してみるのもおすすめです。


無駄の価値化


最後に、全ての無駄を排除すれば良いわけでもありません。デジタルでやれば圧倒的に効率的でも、社員同士の交流など、リアルを選択するケースもまだまだあるでしょう。その場合は、無駄ではなく、価値を改めて意識することが大切だと思います。