#16 「サッカー×ビジネス」キャリアの築き方:はじめに+①スポーツ部門のスタッフ


はじめに


前回までは、「コンサルからサッカークラブへのキャリアチェンジ」や「ビジネス観点からのサッカークラブの内部事情」などを15回にわたってご紹介してきました。今回からは数回に分けて、「サッカー×ビジネス」というキャリアの築き方について、職種、就職の方法、得られる機会、注意点、ネクストキャリアの可能性などを、私の知る範囲でシェアできればと思います。

企画の背景としては、私自身、外国語学部卒のサッカークラブスタッフということで、フロントスタッフや通訳などに興味を持つ学生から問い合わせをもらったり、スポーツビジネスの世界を志すインターン生を会社内で受け入れたりすることなどを通じて、「サッカー×ビジネス」のキャリア相談に乗る機会が増えてきたことがあります。学生のうちから卒業後のキャリアを主体的に切り拓こうとしているだけあり志の高い方が多く、このような学生や若手社会人に現場の活きた情報を共有することで、優秀な方々がより多くスポーツの世界に飛び込んできてくれるきっかけになれればと思い立ちました。

したがって、本連載のメインターゲットは、国内外の名門大学を卒業予定でいわゆる有名企業においてビジネスパーソンとして活躍するポテンシャルがあり、将来はサッカー/スポーツビジネス業界でキャリアを築いていきたい学生、または、その延長にいる若手社会人の皆さんとなります。なお、主に「ビジネスとして」サッカーに関わる内容としますので、「競技として」のサッカーの専門領域であるチームスタッフ(コーチ、マネージャー、エキップメント、メディカルなど)は、基本的には対象外とします。

本連載のコンセプトは、単なるお仕事図鑑ではなく、インターネットで検索しても中々出てこないような、現場のありのままの情報を届けること。したがって、全体感よりも情報の深さを優先します。特に、私自身がビジネス畑の出身者としては珍しくスポーツ部門(強化部)に身を置いてきた中で、自らの経験をもって深掘りできる職種の紹介と記事内容にします。


サッカー×ビジネスのキャリア選択肢 スポーツ部門起点の全体像


業界をMECE的に分類するよりも、サッカーという競技の中心である「スポーツ部門(強化部)」を軸に据え、そこから枝分かれするステークホルダーという観点から全体像をざっと整理します。その中で、「サッカー×ビジネス」のキャリアを送るには、以下のような選択肢が考えられます。

①スポーツ部門(強化部)のスタッフ
②スポーツ部門とともにクラブ運営を支える「ビジネス部門のスタッフ」
③選手やスタッフを支える「エージェント」
④選手を支える「サプライヤー」(主にシューズメーカー)
⑤スポーツ部門及びクラブの事業環境を左右する「協会」及び「リーグ」
⑥スポーツ部門及びクラブの経営を左右する「親会社」

本連載では上記6つの職種を深堀りするとともに、スポーツ部門からは少し遠いですが、私自身の経験をまさにご共有できる⑦「コンサルティングファーム」、及び、⑧「フリーランス/個人事業主」としての関わり方についても、詳細な説明をします。最後に、「チームスタッフは基本的には対象外」と前述しつつも、外国語系の有名大学の在校生から質問を受けることの多い⑨「通訳」を例外的に含めます。以上、合計9回に分けて、サッカービジネス業界でのキャリアアップを望む優秀な大学生と若手社会人の方々にとって、そのヒントとなるような記事を更新して参ります。

なお、「広告代理店」は「サッカー×ビジネス」の対象となりますが、いわゆる図書やインターネットリサーチなどの業界研究で、ある程度一般情報を取得できると思いますので、本連載では割愛いたします。サッカーに関する放映権や試合/イベントの主催、スポンサーシップ・アクティベーション、スポーツマーケティングなどについて興味がある方は、広告代理店への就職は選択肢になるでしょう(特に、「電通」「博報堂」)。ぜひ、企業HPやスポーツビジネス系のウェブメディアをリサーチしてみてください。ちなみに、広告代理店については、本連載で扱う職種と比べると、どちらかと言えば「ビジネス」の比重が大きくなる職種です。


「サッカー×ビジネス」のキャリア:①スポーツ部門のスタッフ


スポーツ部門(サッカー業界では「強化部」という呼称が多い)でのキャリアについて、要旨はこれまでPATIOのコラム内で共有してきた通りです。特に、以下のコラムを振り返っていただけると、改めて理解を深めていただけるでしょう。

#3 元コンサルが"サッカー部門"で何をしているのか

#4 "サッカー部門"で活きているコンサル時代の経験・スキル

スポーツ部門は、基本的には「競技としてのサッカー」を極めてきた方々(例えば、元プロ選手、元プロコーチ)が多く在籍する部門であり、ビジネスをバックグラウンドに持つ人間にとっては、広く門戸が開かれた職種ではありません。自分自身がスポーツ部門に在籍している経緯も、ひょんな偶然やご縁によるものでした。多くのクラブにとっては、まだビジネス出身者に対するニーズが顕在化されていない、もしくは、優先的に予算を配分できない状況であるというのが率直な感想です。

一方で、スポーツ部門にビジネスの知見がある人間が必要であることは、近い将来、多くのクラブが自然と実感していくものと予想しています。なぜなら、プロスポーツチームにおける先端テクノロジーやデータの採用、規制対応または人材採用などの観点を中心とするグローバル化への対応、新世代(Z世代やその先のアルファ世代)の選手たちにとっての魅力的な組織環境の整備などが、今後ますます重要アジェンダとなり、それらを持ち合わせることがプロサッカークラブにとってのコアコンピタンス(競争優位性)となる時代が目前に迫っているためです。

それらの未来を見据えて、仮にスポーツ部門への就職に興味があるのであれば、いざニーズが顕在化した際に、声がかかり採用されるための「準備」ができている必要があります。特に、「論理的な日本語でドキュメンテーションができる」「自社と相手方の双方が納得する落としどころを判断し、その実現に向けたコミュニケーションをとれる」「英語やその他第2言語を用いて読み書きを中心とする外国語業務をストレスなくできる」「金勘定や会計を理解した上で数値計画とその管理ができる」「現在で言えばDeepLやChatGPTなど最先端のテクノロジーを自らの業務に応用し効率化できる」といったビジネススキルを保有していることが前提です。その意味では、上記を含む普遍的なビジネススキルを獲得できるコンサルティングファームをファーストキャリアとして、来るべき時代に備えて研鑽を積むのはよい選択肢だと自信をもっておすすめします。

ビジネス出身者にとって、スポーツ部門の先にあるキャリアは、事業サイドを含むクラブ全体の経営に携わる道、スポーツ部門に関する専門性を突き詰めてプロチームのゼネラルマネージャーになる道、より選手一人ひとりを向き合うことを志向するのであれば選手エージェントに転身する道、または、普遍的なビジネススキルを活かしてクラブ内で他の事業部へ転籍する道、などが現実的なネクストキャリアとなるでしょう。

特に、事業と競技を表裏一体で分析・経営判断ができる理想的なクラブ経営者になることを目指すのであれば、サッカークラブ経営にかかるコストの約半分がスポーツ部門に紐づくものですし、サッカークラブにとって唯一無二の看板商品であるサッカー選手と向き合う部門がどのような力学で運営されているのかを身をもって体感することは、避けることのできない「必修科目」だと個人的には考えています。

次回は、②スポーツ部門とともにクラブ運営を支える「ビジネス部門のスタッフ」についてご紹介します。