#5 選手契約に係る費用のパターン(前編)「選手に支払うお金」

コラム#3で「選手契約に係る費用、及び、選手の契約・登録業務について、どちらも多岐に渡る種類があり、そのルールは日本サッカー協会のガイドラインによって、厳格に定められている」ことに触れました。今回から2回に分けて、この選手契約に係る費用のパターン分岐についてご紹介します。

サッカーの世界における専門的な領域にはなりますが、各費用を会計上どのように取り扱い、強化部としてどのような予算管理をしているのかその一端を理解いただけるかと思います。ぜひとも、息抜き程度にお付き合いいただければ幸いです。

前提として、選手契約に関する主な費用は、支払い先によって下記の2種類に大別されます。

①選手に対して支払うお金
②他クラブ/団体に対して支払うお金

下記スライドが全体像となります。

前編では①選手に対して支払うお金について、後編では「②他クラブ/団体に対して支払うお金」について、詳細にご説明します。

選手に対して支払う費用は、期初には年間予算が確定している固定費と、個人やチームの成績によって予算と実費とで差異が生じる変動費に分かれます。なお、本コラムの定義上、当該費用は人件費に限るものとし、選手にかかる医療費や食糧費、その他全ての経費は含まないものとします。


①選手に対して支払うお金:固定費


固定費とは、選手の年俸支度金の2種類です。

年俸とは、言うまでもなく、選手がクラブのためにプロサッカー選手としての価値を提供してくれることに対する対価・報酬のこと。また、支度金とは、いわゆる準備金のようなものであり、新加入の選手に対して支払われるお金を指します。支度金の用途は、日本サッカー協会の規定上、引越しに伴う住居費家具家電の購入費子供用品の購入費自動車の購入費の4種類に限られています。

年俸と支度金それぞれの金額は、同規定により、下記の通り上限・下限が設定されています。ここでは詳細は省きますが、全ての日本人プロサッカー選手は、これまでの公式戦におけるプレータイムによって、A契約/B契約/C契約のいずれかの契約をクラブと締結しています。その契約種別によって、年俸の上下限が異なるというわけです。

  • プロA契約
    下限:年額460万円 上限:なし*
    *ただし、プロA契約を初めて締結する年に限り、年額670万円の上限あり
  • プロB契約
    下限:なし 上限:年額460万円
  • プロC契約
    下限:なし 上限:年額460万円

プロサッカー選手として初めて契約を交わした選手は全員、まずプロC契約からキャリアをスタートさせます。そして、指定の公式戦プレータイムを達成した場合、もしくは、それを達成しなくともプロC契約期間を3年経過した場合プロAまたはB契約を締結することができます。

なお、プロB/C契約の下限は「なし」としましたが、日本サッカー協会の規定によると、「プロサッカー選手」の定義は選手のサッカー活動の対価として、選手が被る費用を実質的に上回る支払いを受ける者とされているため、当然「プロ選手なのに年俸0円」という契約を結ぶことは認められていません

また、支度金は、選手の家族構成により下記の上限が設定されています。

  • 独身 380万円
  • 妻帯者(配偶者のみ) 400万円
  • 妻帯者(同居扶養家族あり) 500万円

ちなみに、年俸及び支度金の上下限の意図としては、下限設定はプロ選手として最低限の報酬を保証するため、上限設定は各クラブが持つ資金力への依存度を下げて自由競争を促すためのものと理解しています。

固定費の説明は以上となります。


①選手に対して支払うお金:変動費


続いて、変動費とは、選手のパフォーマンスやチームの成績によって支払われる、いわゆる「ボーナス」を指します。このボーナスは、選手ごとのボーナスチーム一律のボーナスの2種類に分岐します。

選手ごとのボーナスは、各選手とクラブ間の契約において個別に定義されたボーナスを指します。例えば「1ゴールにつき〇〇円」といったゴール給や、「公式戦〇〇分出場達成で〇〇円」といった出場給などです。

チーム一律のボーナスは、例えば「チームが1勝するごとに、試合帯同メンバーは〇〇円」といった勝利給や、「チームがJ1リーグ昇格で、全選手に〇〇円」といった昇格ボーナスなど、クラブ全体の中で選手個々の基準額に差が出ない一律の金額を定めたものです。ただし、チームによっては、一律の基準額に対して、契約形態(A〜C契約)や年間の出場時間に基づき傾斜をかけるパターンもあります。

以上、「①選手に対して支払うお金」は、ここまでご覧いただいたように、規定された上下限を逸脱しないよう注意すれば、概念としては至ってシンプルです。次回は、後編として②他クラブ/団体に対して支払うお金について詳細にご紹介いたしますが、こちらは、移籍金や育成金と呼ばれるより複雑な概念となりますので丁寧にご説明したいと思います。